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果実の品質を生理的に、栽培学的に把握することは、果樹生産・販売を行う上で極めて重要です。甘さや香り、外観などを評価する手法は、果実の輸出や貯蔵の現場でも根幹となるものですし、園地をデジタル化する試みにおいても、組み込むべき必須のものです。園芸学の分野ではあたりまえのことですが、農学内外さまざまな分野との融合的なプロジェクトを進めるうえでも重要です。また、現在品種登録出願中のモモ新品種‘福島大学一号’について、その特殊な形質を利用して、様々な生育生理的な調査を行っています。また、東京電力福島第一原子力発電所事故のタイミングより実施している放射性セシウムの果樹園で動態や樹体内への移行などについても引き続き調査・研究を行っています。

もちろんモモ以外も取り組みを行っています。これまでの対象作物例は下記です。

モモ、ブドウ、ニホンナシ、オウトウ(さくらんぼ)、カキ、イチジク、リンゴ、カンキツ、マンゴー、コーヒー、ラッカセイ、イチゴ、カカオ等。

栽培管理方法の違いによる果実品質の違い


果樹生産を行う上で、適地適作を目指した品種の開発がなされていますが同時に、様々な栽培方法も検討されています。特にモモでは、地域、品種あるいは農家によっても栽培管理方法が大きく異なります。栽培方法の違いは、当然、樹体の成長や果実の品質にも大きく影響します。


例えば、果実の品質向上、着色制御や病害虫防除などを目的として果実に袋を掛ける栽培作業があります。この袋掛け栽培により、果実品質として大きく変化する項目とそうでないものがあり、赤着色などは、わかりやすく変化が見られます。一方で、糖やポリフェノールなどの成分や香気成分に関する影響はいまだに不明瞭です。


他にも、果樹の樹形管理には様々な方式がありますが、その一つの要素である剪定強度も強剪定から弱剪定まで様々です。こういった栽培管理法の違いにより、果実品質は大きく異なることは現象として広く認識されていますが、その細かな作用機作にはわかっていないことが多数あります。例えば、剪定強度を弱めることで、根の生育がアンバランスになる、その結果として、果実の生理障害が多発しやすくなるなどについても、樹体内で、どのような変化がもたらされているのか不明瞭です。こういった点に関して、物質動態や光合成や呼吸生理などの面から解析していきます。



同じ樹から収穫した‘あかつき’
同じ樹から収穫した‘あかつき’

光環境(袋掛け等)により着色状態が変わる。また好みもそれぞれ。



モモ10年生樹の解体作業の様子
モモ10年生樹の解体作業の様子

ユンボで掘る所から始まり、ピンセットでの分別作業まで、細かく調査します。




モモ‘福島大学1号’の品種特性


モモの熟期や肉質、エチレン生成、親子関係、着色などさまざまな品種解析、遺伝解析のプロジェクトに参画しています。その中の一つとして、当研究室で品種登録出願中のモモ‘福島大学1号’を用いた様々な解析を行っています。


モモ‘福島大学1号’は、‘紅博桃’の枝代わりの品種です。‘紅博桃’は福島県の主力栽培品種である‘あかつき’の枝代わりであり、‘福島大学一号’は‘あかつき’の孫?のような品種です。この孫ですが、‘紅博桃’と比べて、満開期は変わらないものの、成熟期が10日から2週間程度遅くなるという特徴を持っています。他にも、様々な強烈な特徴を多く持っており、果実が裂開しやすい、果皮直下の細胞層が分厚い、熟期が進むと、果肉内の一部が特徴的な成熟をする、縫合線に沿って強く赤着色がみられるなど様々な特徴的な形質を持っています。


このヘンテコな特性を持つモモ‘福島大学1号’について、着色、裂果、エチレン生成、熟期制御、細胞成長などをキーワードに様々な比較を行っています。


※なお、営利栽培に向いた品種ではないため、一般の苗の販売は行っていません。ご興味あれば問い合わせください。


【動画】モモ‘福島大学1号’の原木

動画前半の原木では、赤く成熟していますが、動画途中の枝変わり先の福島大学1号では熟期が進んでいない様子がわかると思います。



モモ‘福島大学1号’と親である‘紅博桃’の外観
モモ‘福島大学1号’と親である‘紅博桃’の外観

赤く成熟した‘紅白桃’(上)が食べごろになっていますが、‘福島大学1号’(下)は、まだまだ緑色です。



有袋栽培したモモ‘福島大学一号’
有袋栽培したモモ‘福島大学一号’

きれいに赤の一文字が縫合線に沿って発現します。




果樹の樹体内における放射性Csの動態


福島での原子力災害発生以降、福島県内外で果樹に関する諸問題も発生しました。この状況の打破を目的とした研究を行っています。特に放射性セシウムの果樹園で動態や樹体内への移行などについて、モモ、ブドウ、イチジクなどをモデルとして、放射性セシウムの吸収や樹体内での移行の調査・研究を行ってきました。昨今では、当時採取した画像データ、果実ごとのセシウム濃度のデータをさらに整理し、セシウムが樹体内でどのように分布しているか?に関して、樹体の三次元モデルの作成も含めつつ表現しようとしています。


また、出荷停止や流通経路の変化に伴う価格変動の観点、原子力災害に関係した果樹をはじめとする農産物の認識並びにその取り扱いなどに関連するリスクコミュニケーションについての取り組みも始めています。


モモの主幹における放射性セシウムの分布
モモの主幹における放射性セシウムの分布

黒く示されている放射性物質は、樹皮、しかも一番外側の外皮に局在している。



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お問い合わせ

福島県福島市金谷川1 福島大学

IPC308(情報管理センター3階)

果樹の栽培生理と果実品質評価

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